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辞書に載る「的を射る」を巡る謎

「的を得る」が誤用であるという主張は、2013年12月発売の『三省堂国語辞典』が、これまで同辞典が掲載してきた「的を得る」誤用説を撤回したことで、ほぼ俗説と確定しています。

それについてはこちら
【逆転】「的を得る」:「誤用説は俗説」と事実上決着へをご参照ください。(2014.5.28)


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私は「的を得る」が「的を射る」の誤用などではない、という一連の記事を書きましたが、その間「的を射る」は、「的を得る」が登場する前から、長く使用されてきたものと考えていました。

その根拠は「的を射る」が、6万語強しか収録語数のない国語辞典にも採録されているという事実でした。これは24万語の「広辞苑」にも採られず、50万語の「日本国語大辞典」になって初めて採録される「的を得る」とは、日本語としての認知の度合いが全く違うことを示している、と認識していました。

しかし「坂口安吾に見られる「的を」と「正鵠を」の互換性」の記事を書いていて、新しい疑問が湧きました。実は青空文庫で見つけた「的を射る」の用例は、坂口安吾の2例だけでなく、4例すべてが戦後になって書かれた作品のものだったのです。

私は「的を得る」が戦後の「国語改革」を契機に「正鵠を得る」が変化する形で登場したのではないかと考えていますが、今回調べた限り、「的を射る」の登場時期も「的を得る」と同じで、「国語改革」を契機に「正鵠を射る」が変化する形で登場したように思えます。

考え始めると更に謎は深まります。「正鵠を得る」が明治から「国語改革」直後まで20例の用例があり広く使用されているのに対し、「正鵠を射る」は1930年代になって坂口安吾と海野十三の2例があるだけです。それぞれが「的を得る」「的を射る」に変化したなら、「的を得る」の方がより普及し認知もより高くなってよさそうです。しかし多くの辞書に「的を射る」が採録されており、「的を得る」は「日本国語大辞典」以外に載っていません。

「国語改革」前後に活躍した多くの作家の作品は、まだ著作権が有効で青空文庫では用例を確認できません。そのためネットで、ちょっと検索して証拠を見つけるという方法では、この問題の答えを見つけるのは難しそうです。

これについては、後日、機会があれば調べてみたいと考えています。

(参照:「「的を射る」は、何時から「広辞苑」に載ったか?」)

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コメント

ある方が小学館の日本国語大辞典の編集部に「的を得る」の掲載の根拠について問い合わせたところ、「使用例があったので掲載しただけで特に正しいとする根拠があるわけではない。後で考えると誤用ともされる用法であるというような注記が必要だったかもしれない」という回答が来たそうです。出典は「金津園ワールド」というサイトの中にある「質問データベース」というコーナーの「女の子の取り分について」というスレッドの回答番号171です。ご参考までに。

投稿: もぐら | 2014年5月21日 (水) 14時17分

もぐらさん

情報をありがとうございます。

忙しさにかまけてこのブログの更新ができていないのですが、私は以下のような事情で「的を得る」に関しては事実上決着がついたと考えています。

実はこのブログには2年以上前に書いて、当時、私自身が確信が持てなかったために公開していない記事があるのですが、その内容は「的を得る」を誤用とした「国語辞典」の調査をしたものでした。

以下に示すとおり、その結果わかったのは、1982年から1997年まで誤用としていたのは『三省堂国語辞典』のみだったということです。(現在でも、「的を得る」を誤用と載せている「国語辞典」は少数派です)
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「的を得る」誤用説を載せている国語辞典と掲載時期(括弧内は、誤用説が載る前の版と、その出版時期)

1982年『三省堂国語辞典』  第3版(三省堂) (第2版1974年)

1997年『現代国語例解辞典』第2版(小学館) (初版1990年)
2002年『新選国語辞典』   第8版(小学館) (第7版2000年)
2006年『大辞林』        第3版(三省堂) (第2版1995年)
2010年『明鏡国語辞典』   第2版(大修館) (初版2002年)

※(参考)最新版でも「的を得る」誤用説を載せていない「国語辞典」
・『広辞苑』(岩波書店)・『大辞泉』(小学館)・『新明解国語辞典』(三省堂)・『岩波国語辞典』(岩波書店)・『精選国語辞典』(明治書院)・『学研現代新国語辞典』(学研)・『旺文社国語辞典』(旺文社)・『福武国語辞典』(福武書房)・『集英社国語辞典』(集英社)・『角川必携国語辞典』(角川書店)・『講談社国語辞典』(講談社)・『ベネッセ表現読解国語辞典』(ベネッセ)・『三省堂現代新国語辞典』(三省堂)
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また、私が見つけた範囲では2000年以前に誤用説を解説した文書でその根拠としてあげられていたのも、この『三省堂国語辞典』に誤用と記載されていることでした。「国語辞典」の事情に少し詳しい方なら誰でもご存じですが、辞書の神様ともいえる見坊豪紀さんが編集した『三省堂国語辞典』の権威は極めて高いもので、その『三省堂国語辞典』が「誤用である」とした意味は非常に大きなものでした。(日国編集部が自身では「誤用」と判断していないのに、回答には「誤用ともされる」と誤用説に配慮したことにもその一端が伺えます)

見方を変えれば『三省堂国語辞典』に誤用の記載がなければ、このように根拠の薄弱な誤用説が世間に広まることはなかったと思います。

その『三省堂国語辞典』の第7版が去年2013年12月に発売されましたが、この新版から「的を得る」が採録されるようになりました。

「的を得る」の掲載に関して、編集者の飯間浩明さんはtwitterに「『三省堂国語辞典』第7版では、従来「誤用」とされていることばを再検証した。「◆的を得る」は「的を射る」の誤り、と従来書いていたけれど、撤回し、おわび申し上げます。」(https://twitter.com/IIMA_Hiroaki/status/412139873101807616)とツイートされています。

「「的を得る」が普及してしまったので認めた」ではなく、「(誤用説を)撤回し、おわび申し上げます」ということです。(更に、飯間さんは著書『三省堂国語辞典のひみつ』(三省堂)の中でも誤用説は間違いであったから改めた、という趣旨の文章を書かれています)

もちろん私も、追随した4冊の「国語辞典」を含め、これだけ世間に広まってしまった誤用説が一夜にして消えるとは思いませんが、永らく誤用説の旗手であった『三省堂国語辞典』の「誤用説撤回」は今後の帰趨に決定的な影響を与えるだろうと思っています。

投稿: BIFF | 2014年5月21日 (水) 19時58分

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