「婚外子差別撤廃」と同時に「配偶者の権利保護」を!

(2017年7月19日追記)
生存配偶者に住居をかなり確実に残せる試案が示されました。これで「婚外子差別撤廃」の流れの中で最も懸念された点が大きく改善される見通しとなりました。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS18H4Z_Y7A710C1MM8000/
   
(2015年8月 追記)

この問題について各方面から同様の懸念が指摘されたようで、法務省が「相続法制検討ワーキングチーム」を立ち上げて詳細な検討をし「報告書」もあがっています。

(相続法制検討ワーキングチーム 法務省)

 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900197.html

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「差別撤廃」の美名の影で、配偶者の権利が著しい侵害を受ける恐れが強まっているので、研究が不十分ながら以下メモ的な記事をアップします。

最高裁の大法廷で民法900条四項の「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一」という規定が違憲であるかどうか審理されることになりました。1995年の「合憲」判断を再検討するということで、今回は「違憲」判断が出る可能性が高いと予想されています。

違憲とされた場合、民法のこの規定は改正されることになるわけですが、もし単純に嫡出子と婚外子の権利を同等にすると生存配偶者の権利が実質的に重大な侵害を受けます。

以下、具体的にケースを想定してみます。

婚外子が一人いる夫が死亡し、専業主婦である妻と子(嫡出子)が自宅(時価6000万円)を相続したとします。
※わかりやすくするために預貯金、ローンの残などもないものとします。

現行法で相続が発生した場合、妻は自宅の1/2(3000万円相当)子は1/3(2000万円相当)非嫡出子が1/6(1000万円相当)を相続することになります。この場合、遺族である妻子が自宅を売却せずに住み続けるためには、婚外子に金銭で1000万円を支払う代償分割をする必要があります。現行法の規定でも働き手を失った妻子にとってこの支払はかなりの負担になるでしょう。

同じケースで「婚外子差別撤廃」のために非嫡出子の相続分が嫡出子を単純に同等にする法改正がされた場合は、嫡出子と婚外子の相続分は1/4(1500万円)ずつになるため代償分割には1500万円の支払いが必要になります。こうなると妻子が自宅に住み続けることは非常に困難になってしまうでしょう。夫の死亡と同時に、遺族である妻子が「自宅」を失う可能性が極めて高いのです。

日本では、最大の(往々にして唯一の)財産は「自宅」であるという家庭が数多くあります。そして元来、夫婦の財産である「自宅」の取得に寄与したのは配偶者であって、子でも婚外子でもありません。ところがこのまま単純に非嫡出子の権利を拡大した場合、何一つ落ち度のない生存配偶者の生活権が脅かされるケースが続出するのは目に見えています。

子であれ婚外子であれ、親の財産に対してその生活権を脅かすほどの権利があるとは、私には思えません。「婚外子差別」の撤廃にあたっては、生存配偶者の権利を守るための配慮が絶対に必要だと考えます。

たとえば相続に保守的なフランスでは、2001年に婚外子差別撤廃の法改正を実施しましたが、それと同時に生存配偶者の相続権を拡大しました。

従来の法律では、生存配偶者の相続分は夫婦の共有財産の1/2で残り1/2を子が相続することになっていました。子が嫡出子と婚外子の2人の場合なら、嫡出子1/3婚外子1/6になります。(共同財産制のため実際には日本とは色々違うのですが大雑把に言えば我が国と同様でした)

改正によって嫡出子と婚外子の権利は平等になりましたが、同時に配偶者は元来の1/2とは別に、残りの1/2に対しても子と同じ権利を相続することにしたのです。こうすることで妻は元々の1/2の権利に1/6を加えて合計で2/3、子はいずれも1/6という配分になったわけです。

フランスの改正法では、先ほどの例のように時価6000万円の自宅を相続した場合、妻4000万円相当、子は嫡出子非嫡出子とも1000万円相当になります。このように配偶者の相続権に配慮して、婚外子の相続格差を是正したわけです。

非嫡出子であっても嫡出子と同様の相続権は認められてしかるべきなのは勿論ですが、実質的に配偶者の権利を侵害するような形でその権利を拡張するのは明白な不公正です。

私たちは「差別撤廃」という理想だけではなく、配偶者の正当な権利の保護という現実にも目を向けることが大切だと思います。

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夫婦別姓の議論について

日本で夫婦別姓の問題が議論されるようになって久しくなります。

私自身は別姓にすることに抵抗は感じますが、同姓でなければならないとまでは思いません。しかし夫婦別姓の議論の中に、明らかに誤った認識に基づくと思われるものが含まれているのが気になったので、基本事項を整理するために記事を書いてみることにしました。

それは、他でもない「姓」(法律では氏(うじ))に対する認識です。

日本の法律上、人の呼称は「氏」と「名」の組み合わせによって成立する事になっていますが、「氏」は民法上の規定によって決まり、「名」は出生届によって決まります。この「氏」と「名」のうち、厳密に個人に帰属するのは「名」のみです。「氏」は「個人」ではなく、言わば「夫婦」の呼称だからです。

一番基本的なことですが、現在の日本の戸籍制度は「個人別登録制度」ではありません。昭和22年の民法改正で「家」制度が廃止されて以降は、婚姻による「夫婦」が戸籍の単位になっています。明治以降の家父長制度は当時の国家経営には都合が良かったものの、「個人」にとっては極めて弊害の多いものでした。その「家」が解体され、替わって登場した戸籍法上の単位は「個人」ではなく「夫婦」なのです。

現在日本では、人は生まれると父母(婚姻によらない場合は母)の戸籍に登録され、その「氏」を獲得します。そして成長し自分が婚姻した時点で父母の戸籍から出て、新たに自分たち夫婦の戸籍を持つことになりますが、この新しい戸籍の「氏」を決める際の選択肢が、婚姻前の夫または妻の「氏」となっているわけです。

法律上「氏」は単一の夫婦の呼称ですから、理屈の上では夫婦が「同氏(同姓)」であるのは当たり前なのです。

私は夫婦別姓という考え方が誤りであるとは思いません。ただ、この問題を論じるのなら、60年前に「家」を解体したように、「夫婦」という単位を解体して、戸籍を個人登録制に移行するべき時期に来ているかどうか、日本の現状に即して検討しなければならないと思います。

私は今のところ夫婦別姓の導入について、まだ国民の共通理解が出来ていない段階で、拙速に法改正を進めるべき状況ではないと考えています。60年も前に消滅した「家」という観念からも十分脱却できていないため、夫婦単位(核家族化)への適応も不十分というのが日本の現状で、このうえ更に戸籍を細分化し個人登録に移行しても、教育、老後の両親の扶養や相続など、家族をめぐる問題が混乱し、深刻化しこそすれ、それを上回るメリットがあるとは思えないからです。

ただ婚姻による新戸籍の「氏」の選択肢が夫または妻の「氏」の二者択一という現状は、考え直すメリットがありそうに思います。例えば、父母の旧姓を含め選択肢を4つにするだけでも、結婚による改姓の負担が必然的に夫婦の一方のみにかかる現状を改善し、「氏」が夫婦の呼称であるという認識を高める効果が期待できるのではないでしょうか。

※論旨を明確にするため、一部冗長な部分を削除、言い回しの訂正を行いました。(2010.12.24)

※用語が便宜的なものであることを明示するために、本文中「「夫婦」の呼称」の前に「言わば」を追加しました。(2010.12.28)

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